2023年2月2日木曜日

台湾有事①:台湾問題と中国共産党第20回大会

台湾危機が叫ばれているが、習近平政権は台湾を武力統一する方針を持っているだろうか。武力統一をするならいつどんな状況の下で実行するだろうか。以下は中国共産党第20回全国代表大会報告の台湾に関する一部である。それを読むと必ずしもそのような方針を持ってはいないと読める。武力統一に乗り出すかもしれないのは、台湾が中国からの独立を鮮明にして、台湾も憲法で認めている一つの中国から逸脱するときがきたら、ということだ。中国のこれほどの基本文書で決めたことを大嘘をつくことがあるだろうか。そうならまず第一に中国国民に対する裏切りであるし、近隣諸国や世界全体に対しても裏切ることになってしまう。そのような政権は持たないだろう。以下にその部分を示す。

過去5年間の総括の部分

一 過去五年の活動と 新時代の一〇年の偉大な変革

揺れ動く香港の情勢を前に、われわれは特別行政区に対する全面的な管轄統治権を憲法と基本法に則って効果的に運用し、香港特別行政区国家安全維持法を制定・実施し、「愛国者による香港統治」の原則を徹底したことで、香港の情勢が混乱から安泰へと大きな転換を遂げた。粤港澳(広東・香港・澳門)大湾区建設をいっそう進め、香港と澳門の経済発展、民生改善、安定維持を支援した。「台湾独立」勢力による分裂活動と外部勢力による台湾の事柄への干渉というゆゆしき挑発を前に、われわれは徹底して分裂反対・干渉反対の重要な闘争を展開し、国家の主権と領土保全を守って「台湾独立」に反対するわれわれの確固たる決意と強大な能力を示し、祖国の完全統一を実現する戦略的主導権をいっそう強く握り、一つの中国を認める国際社会の枠組みをいっそう強固なものにした。国際情勢の急激な変化を前に、とりわけ外部からの威嚇、抑制、封鎖、極限の圧力を前に、われわれは国益を重視して国内政治を優先させることを堅持し、戦略的不動心を保ち、闘争精神を発揚し、強権を恐れないという確固たる意志を示し、闘争の中で国家の尊厳と核心的利益を守り、わが国の発展と安全の主導権をしっかりと握った。この五年、わが党は人民を団結させ率いて、長年解決できなかった数多くの難題を克服し、未来にかかわる数多くの大事・要事を成し遂げ、党と国家の事業において世界の注目を集める大きな成果を収めた。

われわれは「一国二制度」の実践を全面的かつ正確に推し進め、「一国二制度」、「香港住民による香港統治」、「澳門住民による澳門統治」、高度の自治という方針を堅持し、香港が「混乱から安泰へ、安泰から興隆へ」の新段階に入るよう推し進めて、香港、澳門は長期的で安定した発展という好ましい状態を保った。われわれは新時代における台湾問題解決の基本方策をうち出し、両岸の交流・協力を促し、「台湾独立」分裂活動に断固として反対し、外部勢力からの干渉に断固として反対し、両岸関係の主導権と主動権をしっかりと握った。

続いてこれから5年間の方針の部分。

一三 「一国二制度」を堅持・祖国の統一を推進する

「一国二制度」は中国の特色ある社会主義の偉大な壮挙であり、祖国復帰後の香港・澳門の長期的な繁栄・安定を保つ最善の制度的取り決めであるため、長期的に堅持しなければならない。

 

「一国二制度」、「香港住民による香港統治」、「澳門住民による澳門統治」、高度の自治という方針を全面的かつ正確に、揺るぐことなく貫徹し、法に基づく香港統治・澳門統治を堅持し、憲法と基本法で定められた特別行政区の憲制秩序を守る。「一国二制度」の制度体系を堅持・整備し、中央の全面的な管轄統治権を徹底し、「愛国者による香港統治」と「愛国者による澳門統治」の原則を徹底し、特別行政区の国家安全維持のための法律・制度と執行メカニズムをしっかり運用する。中央の全面的な管轄統治権と特別高度な自治権の保障の統一を堅持し、行政主導を堅持し、特別行政区の行政長官と政府による法に基づく施政を後押しし、全面的統治の能力と管轄統治向上させ、特別行政区の司法制度と法律体系を整備し、香港・澳門の資本主義制度と生活様式を長期的に保ち、香港・澳門の長期的な繁栄・安定を促進する。

 

香港・澳門が経済発展、民生改善をはかり経済・社会の発展における根深い矛盾と問題を解決するよう後押しする。香港・澳門の優位性と特徴を発揮させ、国際金融や貿易、水運・航空、イノベーション・科学技術、文化・観光などの分野における香港・澳門の地位をうち固め向上させ、香港・澳門と各国各地域とのより開かれた、より緊密な交流・協力を深化させる。粤港澳大湾区建設を推進し、香港・澳門が国家の発展の大局にいっそう融け込み、中華民族の偉大な復興の実現のためによりよく役割を果たすようサポートする。

 

祖国を愛し香港を愛し澳門を愛する勢力をいっそう拡大し、香港・澳門の同胞の愛国精神を高め、「一国二制度」を支持するより幅広い国内外の統一戦線を結成する。中国反対・香港撹乱・澳門撹乱勢力を断固として取り締まり、香港・澳門の事柄に対する外部勢力からの干渉を断固として防ぎ、食い止める。

 

台湾問題を解決して祖国の完全統一を実現することは中国共産党の確固不動の歴史的任務であり、すべての中華民族の人々の共通の願いであり、中華民族の偉大な復興を実現する上での必然的要請である。新時代における党の台湾問題解決の基本方策の貫徹を堅持し、両岸関係の主導権と主動権をしっかりと握り、祖国統一の大業を揺るぐことなく推進する。

 

「平和的統一、一国二制度」の方針は両岸の統一を実現する最善の方式であり、両岸の同胞および中華民族にとって最も有利である。われわれは一つの中国の原則と「九二年コンセンサス」を堅持し、それを踏まえて、台湾の各党派、各業界、各階層人士と、両岸関係・国家統一について幅広く踏み込んで協議し、共同で両岸関係の平和的発展と祖国の平和的統一のプロセスを推進していく。広範な台湾同胞との連帯を堅持し、祖国を愛し統一を目指す台湾島内の人々を揺るぎなく支持し、共同で歴史的大勢を把握し、民族の大義を堅持し、「台湾独立」に断固反対し祖国統一を揺るぐことなく促進する。偉大な祖国は永遠に祖国を愛し統一を目指すすべての人々の強固な後ろ盾である。

 

両岸同胞は血のつながった「血は水よりも濃い」家族である。われわれは終始台湾同胞を尊重し思いやり、彼らに幸福をもたらしている。引き続き両岸の経済・文化の交流協力を促進し両岸の各分野の融合発展を深化させ、台湾同胞の福祉増進につながる制度と政を充実させ、両岸がともに中華文化を発揚するよう推進し、両岸同胞の心の通い合いを促すことに力を注いでいく。

 

台湾は中国の台湾である。台湾問題の解決は中国自身のことであるため、中国人自身で決めるべきでる。われわれは、最大の誠意をもって、最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必な措置をとるという選択肢を残す。その対象は外部力からの干渉とごく少数の「台湾独立」分裂勢力おびその分裂活動であり、決して広範な台湾同胞に向けたものではない。国家統一・民族復興という歴史の輪は着々と前へ進んでおり、祖国の完全統一は必ず現しなければならず、必ず実現できるのである。

 

文章を読むとわかるように、習近平政権がいう「一国二制度」は、統治権は北京政府が持つが、その許容範囲で自治を認める、ということ。中国という一つの国が内部に並立する2つの政権を認めるということでは全くない。香港はその方針に基づいて対処し、民主主義を主張する勢力を弾圧して一掃した。これでは台湾の人々が受け入れるわけがない。しかし、香港でやったように警察力や武力をもって台湾を平定しようという方針ではない。文章からは、台湾との統一は台湾の各党派・各業界・各層との合意形成をし、経済的なつながりを重視して、平和的な統一を目指すことを述べている。ただし、中国からの台湾の独立を主張する一部の勢力には反対し、彼らの動向によっては武力統一の排除はしない。台湾で独立派と目されている人は全体の2割以下ほどしかいないし、全体の8割に近い台湾の人々は現状維持を望んでいるので、習近平政権が近々台湾の武力統一をするだろう、などというのは虚妄としか言いようがない。尤も台湾に対する経済的な浸透は習近平政権になってからは必ずしも思惑どおりにはない出来ていない、という指摘が研究者から出ている。台湾を「一国二制度」のもとに中国に組み入れたいと中国は考えているが、だからと言って習近平政権が武力をもってすぐにでも台湾を武力統一しようとしている、という情報はいったいどこから出てきたのだろうか。

「ここで思い出すのは2021年の日米首脳会談の前の3月、前米インド太平洋軍司令官のデービッドソン海軍大将が米上院軍事委員会で、『中国軍が27年までに台湾に侵攻する可能性がある』とあらためて述べた証言。証言時期から判断すれば、その狙いが、日米首脳会談に向けて台湾有事を緊急課題にし、日米安保の性格変更の「地ならし」と、対日世論工作にあったことが分かる。」(岡田充) 一般の人が知らない軍事機密情報に見せかけて、ありそうもない台湾危機をでっち上げて発表したと思われることだ。日本の政権側もそれに乗って国内向けに台湾危機を言い募り、「それは大変なことだ」と国民に思わせ、敵基地攻撃体制をつくる大軍拡に乗り出した。しかも日本側がそのようなコメントを出すように米国側、米軍側に嗾けたのではないかとさえ疑われる。このような謀略に対してはかつての柳条湖事件や*トンキン湾事件、イラク戦争などが想起される。だからむしろ、アメリカと日本が中国との戦争を嗾けることのほうがありそうに思う。

*柳条湖事件:1931年9月18日夜、中国東北部の奉天(今日の瀋陽)近郊の柳条湖付近で南満州鉄道(満鉄)の線路を関東軍がみずから爆破したのを、中国軍の仕業と謀略的にウソをいい、それを機に中国軍を襲った事件で、日本が中国東北部への侵略(満州事変)を始めたきっかけになった。

*トンキン湾事件:1964年8月、北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件。これをきっかけに、アメリカは本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始した。しかし後の1970年にこの事件はアメリカが作り上げた虚偽であることが判明した。

*イラク戦争:アメリカが主体となり、2003年3月20日からイギリス、オーストラリア、ポーランドが加わる有志連合によって、サダム・フセインのイラクが大量破壊兵器を保持しているとして武装解除をするという理由を建てて『イラクの自由作戦』の名の下に、イラクへ侵攻したことで始まった軍事介入。イラクには大量破壊兵器などなかったことが後に判明。

自由航行作戦と称して台湾海峡をアメリカの艦艇が通行したり、ペロシ下院議長やアメリカの議員団が台湾を訪問するなどしている。それに対して中国軍も台湾の周りで軍事演習をして応戦しているが、台湾の民意はどうなっているのだろうか。

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